弊社は、危機介入に特化した業務を行っていることから、受療中断のために重篤化した精神疾患の患者家族や、受療拒否による精神科未受診で精神疾患が疑われる病状増悪の方の家族からの相談がほとんどです。

特に最近は、本人の強迫観念に起因する家族への買い物要求や金銭の無心、軟禁監禁ともいえる時間拘束等の相談が増えています。家族も健全な判断ができなくなっており、本来必要な医療のレールに乗れないばかりか、「親子の関係を断ちたい」とまで追い込まれています。

こういった相談事例に接するにつけ、家族では対応が難しいが、かといって、本人の症状が重く、一人暮らしでは通院や服薬が継続できない方の場合、いったい誰が責任をもってその方を支えていくべきなのか、考えさせられるものがあります。さらに保護者制度が廃止された今、法律と実情には大きな乖離があり、現場は混乱しているようにも思えます。

まず、保護者制度とはいかなるものだったのでしょうか。

これは、家族に対して、精神障害者に治療を受けさせる義務、財産上の利益を保護する義務、医師に協力する義務など、数々の義務が課されたものでした。

全国精神保健福祉連合会が2010年に発表した資料においては、

そもそも素人の家族に、「治療を受けさせる」といったことを義務づけることに無理があり、治療を受ける意思がないが、治療を必要としている人には専門家や公的機関が関わって、専門的な立場から説得するなり、関わりをもつべきです。

と指摘しています。

この指摘はもっともなことです。さらには家族の高齢化などを鑑み、2014年施行の改正精神保健福祉法により、保護者制度は廃止されました。

それでは現在、医療や福祉の現場における家族の位置づけは、どうなっているでしょうか。

たとえば「改正精神保健福祉法に取り組むための 保健所ガイドライン」には、「成人した患者さんであれば、家族には同居や介護をする義務はありませんので、受け入れができないのであれば、その旨を主治医や病院にしっかりと伝えると良いでしょう」と、明記されています。

一方で医療機関においては、同居する家族がいる場合、退院後は自宅に戻ることが既定路線となっています。とくに関東圏のように、グループホームなどの施設が圧倒的に足りていない地域では、家族が「退院後の同居は無理」と訴えても、「グループホームの空きがない」「(本人が)共同生活に向いていない」などと言われ、なすすべがありません。

弊社が依頼を受けるのは、病気が理由とはいえ親子関係が最悪の状態……大袈裟ではなく「殺すか、殺されるか」という一触即発の状態にあるケースばかりです。家族は本人からの暴力や暴言に長年、支配されてきており、本人を医療につないだあとも「ちょっとした物音で目が覚めてしまう」「本人のことを考えると震えてしまう」と語るなど、PTSDのような状態にある家族も少なくありません。

ここまで関係がこじれてしまうと、入院治療後、本人の精神状態が安定したからといって、同居をしたり、家族仲を取り戻したりすることは難しいと言わざるをえません。また、本人の立場に立ってみれば、精神状態の悪化には少なからず親の影響があったことも事実で、親元に戻ることが良い選択とならない場合が多いものです。

こういった親子を数多く見てきたからこそ、弊社では医療機関と本人、家族の間に入って意思の疎通を行い、距離をもって生活できるよう最前の道を模索しています。近年は、「毒親」の流行もあり、一緒にいてはいけない親子がいることも広く認知されるようになりました。

しかし残念なことに、肝心の医療の現場では、退院後の受け皿がなければ家族のもとへ戻すしかない、という姿勢が見受けられます。「大変なのはわかるが、親なんだから直接対応しないのはおかしい」と言う声も耳にします。

法律上、家族に義務(責任)がなくなったことは事実ですが、かといって、地域の受け皿も圧倒的に足りておらず、なによりも、地域移行に当たって、どの専門家や公的機関が本人を支えていくのか、「責任」の所在は明確にされていません。

むしろ、保護者制度が廃止されたことにより、入院治療は「任意入院」が主体となりつつあります。本人に病識がなく病院に連れて行けない場合には、入院治療を受けさせること自体がとても難しくなっており、家族にはいっそうのしわ寄せがいっているのです。また、やっとの思いで医療につないでも、入院中に病識を持たせられず、病状憎悪につながる家族の問題も解決できないまま退院になることで、結果的に受療中断となってしまうケースも多く見受けられます。

精神障害者アウトリーチ事業が実施されている自治体が少ない現状では、重篤な精神疾患の患者ほど社会から孤立しています。弊社では、この「責任の所在なき地域移行」が、より多くの家族間事件につながるのではないかと危惧しています。