保護者制度が廃止されたことで、懸念事項となるのは、精神障害者が事件や事故を起こした場合の、家族の責任についてです。

誤解のないよう申し上げておきますが、事件や事故は、障害の有無に関係なく誰もが起こす可能性があるものです。よって、精神障害者が事件や事故を起こしやすい、危険な存在であると言いたいのではありません。

しかし家族の立場では、本人が適切な治療や支援につながっていない場合、精神状態が悪化する姿を目の当たりにしていることもあり、「いつ事件や事故を起こしてもおかしくない」と訴える方もいます。「もし万が一のことがあったら……」という不安は、常につきまとうものではないかと思います。

弊社によくある相談事例としては

・アルコール依存症による飲酒運転

・向精神薬を大量服薬したまま車の運転をする

・公共物などの器物損壊を繰り返している

・近隣住民と何度もトラブルを起こしている

といったことが挙げられます。

家族は、本人が第三者を傷つけてしまうことはもちろん、事件・事故が起きた場合の損害賠償はどうなるのかといった、現実的な問題も恐れています。実際に、本人が器物損壊やトラブルを起こすたびに親が賠償をしてきた結果、いよいよ経済的に立ちゆかなくなった、とおっしゃる家族もいました。

家族の監督義務については、民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)に記載されています。

1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

しかし、精神保健福祉法に照らし合わせると、そもそも保護者の義務が廃止されており、保健所のガイドラインにおいても「成人した患者さんであれば、家族には同居や介護をする義務はありません」と明記されています。

ここで参考になるのが、2007年、愛知県大府市で、認知症で徘徊(はいかい)中の男性(当時91)が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求めた訴訟です。

この訴訟では、一審判決(地裁)では妻と長男に約720万の支払いが命じられ、二審判決(高裁)では、妻に約360万の支払いが命じられましたが、2016年3月の最高裁においては、一転して「妻も長男も賠償責任なし」との判決が下されました。同居する妻は当時85歳で「要介護1」の認定を受けており、長男は、介護の方針を決定していたとはいえ、両親とは20年以上も別居していたと言います。

当時の朝日新聞では『認知症事故判決「家族にとって救い」誰が責任…課題も』と題する記事に、以下のような記述もありました。

遺族の代理人を務めた浅岡輝彦弁護士は、判決後の会見で、「遺族の主張が全面的に採り入れられたすばらしい判決。認知症の方と暮らす家族の方にとって本当に救いになった」と、晴れ晴れした表情で話した。

一方で、「判決で全てが解決するわけではない。国の政策は。家族はどうするのか。責任能力がない人が起こした事故の損害回復はどうすべきかは簡単ではない」と課題も指摘した。

なお、補足しますと、上記最高裁判決は、今後同様の事件において、一律に家族に賠償責任はないと受け取れるような判断を示したわけではありません。介護する家族が「監督義務者」にあたるかどうかについては、以下の6つの要素の判断基準を示しています。

・介護者自身の生活状況や心身の状況

・親族関係の有無や濃淡

・同居の有無や日常的な接触の程度

・財産管理への関与の状況

・認知症の人の日常生活における問題行動の有無

・問題行動に対応するための介護などの実態

このような判断基準が示された背景には、精神保健福祉法が改正され、保護者の義務規定が削除されたことがあると思われます。

そして、夫婦や親子という事実だけで「法定監督義務者」にはあたらないことが明確になったとはいえ、認知症高齢者の事故の責任は誰が負うのか? という問題は残されたままです

裁判となれば総合的に判断されるにしても、2013年における認知症高齢者数は、466万人、2025年には、700万人と推計され、いつ自分が、加害者家族ないし被害者家族になるとも限りません。近年、増加している高齢運転者による交通事故の中には、認知症高齢者も含まれていることでしょう。

認知症を精神障害にそのまま置きかえられるわけではありませんが、「責任の所在なき地域移行」が推進されている現状は、介護も精神障害も同様です。家族も悲鳴をあげている現実があり、万が一の際の監督責任を負わせるのはあまりに酷であると言えます。かといって、精神障害により判断能力のない人が起こした第三者への損害の責任を誰が負うのか。責任の所在が明確ではないという現状を、一般市民が受け入れられるものでしょうか。

まさに大きな課題が残されたことになります。