今年一月、隣の住宅に住む高齢女性(当時92)を殴って死亡させたとして、傷害致死罪に問われた男性被告(46)の裁判員裁判がおこなわれ、懲役3年、執行猶予4年(求刑懲役5年)の判決が言い渡されました。

この事件の背景には、2年にわたる隣人トラブルがあったようです。

被告は平成20年ごろから、アパートの角部屋に一人で住み始めた。隣の一軒家に住む被害女性が、被告のアパートに向かって怒鳴りつけるようになったのは、27年8月ごろからだった。「2階の男! 音がうるさい!」。2階に住んでいるのは自分だけ。被告は、自分が標的にされていると感じた。検察側の冒頭陳述によると、女性には精神疾患があったとみられる。

引用:産経新聞 2017/6/15

被告男性は月に1、2回の頻度で怒鳴られるようになり、日常音にも気をつけ、ボイラーの音を出さないために入浴もやめていたと言います。引っ越しはお金がかかるのでできず、相談相手もいないまま月日は重なり、昨年の12月からは女性に自宅の扉を叩かれ、路上から怒鳴られるようにもなりました。

そして事件の日、女性と言い争いになった男性は、女性を平手でたたきました。女性は路上に転倒し、くも膜下出血などにより亡くなりました。

公判で、検察側は被告に同情する関係者の供述調書も読み上げた。被害者の訪問看護師は「女性は被害妄想を抱いていて、隣のアパートに怒鳴り声を上げていた。家に置いておくのは最良の方法ではなかった。でも、『夫と一緒にいた家からは離れたくない』と言って入院は拒んでいた」とした。

また、女性の息子は供述調書で、「母は80歳を過ぎたころから、『いたずら電話がかかってくる』などと言い始めた。入院も拒んだ。私の妻に対しても『通帳を盗んだ』『判子を戻してくれ』と言っていた。今から考えれば、縄で縛ってでも入院させれば良かった。隣の男性も被害者で、加害者は病気です」と、被告への同情も示した。

被害者女性の家族も訪問看護師も、地域での生活に限界を感じていたものの、女性の意思が優先されていたことが分かります。しかし結果をみれば、被害者、加害者、そして双方の家族の誰もが不幸となる結末を迎えてしまいました。

隣人トラブルは、弊社にも数多く寄せられる相談の一つです。対象となる方に精神疾患が疑われる場合、近隣住民の相談先は保健所または精神保健福祉センターとなりますが、本人が治療を拒んでおり、家族も協力的ではないとなると、医療や福祉につなげるには困難を極めます。

弊社への相談では、「対象となる方に身寄りがなく一人暮らし」「家族はいるが遠方に住んでいるらしい」「同居する家族も精神疾患のようだ」といったお話も聞きます。

また、被害者女性のように訪問看護などの支援を受けていても、地域生活が限界ではないかと思われるケースもあります。しかし地域移行が進められ、本人の意思が最優先とされるいま、「誰が」「どのタイミングで」入院治療や施設入所の決断を下すのかについては、議論にさえならないまま、置き去りとされています。

自宅にとどまることを望んだ女性も、近隣住民に迷惑をかけることまで望んでいたとは思えません。女性の息子が「加害者は“病気”です」と証言したように、病気であるがゆえに健全な判断力を失っていたと考えられます。

厚労省2014年の患者調査では、精神疾患患者数は、6年前の2割増で392万人とされています。若いうちは元気でも、高齢になれば誰もが認知症や身体機能の低下など、障害をもつ身となる可能性もあります。

障害や病気とどう向き合い、どんな人生を送りたいのか。本人の意思が最大限に尊重されるいま、先々を想定し、「自分はどうしたいのか」を考えておくことはもちろん、明確な「意思表示」をもしておく必要があります。

たとえば、心身ともに健康であるうちに、夫婦、親子間でよく話し合っておく。必要に応じて、公的文書として残しておく。かかりつけ医(ホームドクター)をもち、万が一の際には医師から適切な医療機関につないでもらう……といった方法もあります。

なお、「マイノート」では、そのような「もしものとき」に備えた記録もできるようになっています。パソコンソフトやメール、ブログやフェイスブック等、文明の機器も利用しながら準備をしておくことが、最悪の事態を回避する方法の一つです。