精神疾患をもつ子供の言動に振り回されている家族が相談に来られた際、「あの子さえいなければ……」とおっしゃることがあります。その後につづくのは、たとえば、「他の家族は皆ふつうなんだから、(あの子さえいなければ)一家で仲良くやっていけるのに」とか「もっと仕事に注力できるのに」「夫婦仲がこんなに悪くなることもなかったのに」……などといった言葉です。

 本人の言動が家族を困らせるものであることは事実ですが、「あの子さえいなければ」の結果にまで目を向けてみると、「家族の問題」の原因は、決して本人だけによるものではないことが分かります。

よくあるのが、精神疾患をもつ本人ときょうだい(他の子供たち)の仲が悪い、というケースです。きょうだいも学校を休みがちだったり、あるいは問題行動があったりと、精神的に不安定になっている様子が見受けられます。それゆえに大半の親は、「あの子が家にいるから、きょうだいまで不安定になる」と主張します。本人さえいなくなれば、きょうだいの精神面は安定するはずだし、親だけで対応がとれますから、というふうにもおっしゃいます。

弊社では、家族では対応しきれなくなった問題に携わることが多いため、本人の入院治療や施設入所と並行して、家族とは物理的・心理的に距離をもてるようにしていきます。そのため弊社の介入により、図らずも家族が望む「あの子さえいなければ」の状況ができあがることになります。

もちろん、それにより家族が安定した生活を取り戻せることもあります。しかしいっぽうで、本人がいなくなったことにより、新たな問題が噴出する家族がいることも事実です。

たとえば、残されたきょうだいの心の問題も実は深刻なもので、本人がいなくなったのに、精神状態が良くなるどころかむしろ悪くなった、ということがあります。この背景には、「精神疾患と家族(きょうだいの関係)」で指摘したように、養育環境そのものに問題があり、きょうだいも親子関係に悩んできたことが考えられます。

親がその事実に向き合い、適切な対応をとっていかないと、きょうだいも、本人同様かもしくはもっとひどい状況に陥ることにもなりかねません。

また、これは過去にあった相談事例ですが、「子供の精神疾患のせいで振り回され、仕事にまで支障が生じて困る」としきりにおっしゃる父親がいました。有名企業に勤務し、それなりの役職についている方でしたので、そう考えるのも仕方ないと思う反面、「子供より仕事が大事」と言い切るなど、家族への愛情は感じられませんでした。

弊社が介入し、本人のことはぶじに医療につなげることができました。父親も「これで仕事に集中できる」とおっしゃいましたが、不思議なもので、本人はその後も、父親にとって「昇進のかかった最重要の仕事」が入っているときほど、病院内で重大な問題行動を起こしました。

弊社が間に入っているとはいえ、父親にも保護者としての対応をとってもらわねばならず、そのたびに父親は仕事から離れることになり、終始、苦い顔をしていました。

本人は入院中ということもあり、父親の仕事の状況など知る由もなく、偶然が重なった出来事ではありましたが、いくら本人の存在を家庭から排除したからといって、家族が望むようにうまく物事が進むわけではないのだな……、と学んだ事例です。

これは精神疾患の有無に関係なく、誰にでも言えることですが、うまくいかないことを誰かのせいにしたり、他人の言動を批判したりすることはとても簡単です。ですが、重要な問題ほど、誰かのせいにしたり、他人を批判したりしても、なんの解決にもならないことがほとんどです。

しかし、家庭の中に精神疾患など障害をもつ子供が一人いると、家庭で起きるさまざまな問題がその子のせいにされてしまいがちです。本人が自傷他害行為などをおこない、家族に迷惑をかけていることは事実ですが、家族もまた、あらゆる不満の矛先を本人にぶつけたり、ひどいときは虐待めいた言動(放置も含む)をしていることもあります。

繰り返しお伝えしていることですが、いくら血のつながった家族といえども、互いの人生を思い通りに操作できるわけではありません。精神疾患などの障害を抱えているからといって、家族にわがままを言ったり、暴力を振るったりしてもよい、という理屈にはならないのと同様、家族が、精神疾患をもつ本人を「邪魔な存在」として無碍に扱うことが許されるわけでもありません。

本人を医療や福祉につないだことで「ああ、良かった」とホッとする親御さんがいます。しかし、真の問題解決はここからスタートします。とくに親子の問題が根底にある場合には、精神科の治療(投薬など)だけで良い状態を継続できるわけではありません。本人への理解を進めるためにも、医療関係者など第三者に間に入ってもらい、客観的な見方、考え方を養ってほしいと思います。

そして、「家族の問題」がここまでこじれてしまったのはなぜなのか……、本人にすべての原因を押しつけるのではなく、これまでの子供への接し方、ひいては自分自身の歩んできた道についても、振り返ってみてほしいと思います。さもなくば、再び、本人含め子供たちの問題に悩まされることになりかねません。

人間であれば誰しも、欠点があり足りないところがあります。重要なことは、それに対する認識や自覚をもっておく、ということではないでしょうか。そう考えてみると、家族の問題が噴出したときほど、実は自分を見直すチャンスとも言えます。一歩ひいて客観的に自分の家族・親子関係を眺めてみたり、また、「自分」という人間を掘り下げてみたりすることが大切です。