7/28の押川のブログでは、「精神病質」に触れています。

この、精神保健福祉法第一章総則第五条(定義)にある「精神病質」ですが、いったいどのようなものを指すのか、法律上で明らかにされているわけではありません。古い言葉がそのまま使用されているという説もあり、いまの日本では、英訳である「サイコパス」のほうが有名かもしれません。

そして「サイコパス」というと、映画などのイメージから、冷酷な犯罪者として捉えられることが多い反面、近年では、社会的成功者の中にも多く見られることが分かっています。

なお、疾病分類や用語集などでは、「精神病質」(Psychopathic personality)という言葉は使われなくなり、「人格障害」を経て「パーソナリティ障害」(personality disorder)が使われています。よって、精神病質についての記述は、過去の文献を頼らざるを得ません。

精神医学の歴史のうえからみても、その国、その時代の思潮などを反映し、かなりの変遷がみられます。また同時代の一国の精神医学界においてもさまざまな見解があります。世界的な規模での統一的概念は見出すことができない(引用:現代精神医学体系/中山書店/新井尚賢、武村信義)というのが、大まかな見解です。

我が国においては、1970年4月に日本精神神経学会において、「精神病質」 Psychopathic personality と定められ、1972年の第69回日本精神神経学会総会における「いわゆる精神病質について」のシンポジウムにおいて、「精神病質は医学的概念ではない」ということを中心にはげしい論争が展開された、とされております。

精神病質問題は、精神医学的実践にあたり個々の精神科医自身が抱く精神医学観、彼の人生観、さらにつきつめていえば、彼がどのような人柄の人間であるかというところまで遡及してしまうことでもある。

いわゆる精神病質―異常人格の問題は精神科医が日常の実践において、現実に取り扱わねばならない。また広くとれば、精神病の病前性格、あるいは異常体験反応の基礎にある性格の問題として、各種精神障害の病理発生、病状形成の一要因としても考えていかなければならない。

引用:岡田敬蔵(元松沢病院長)現代精神医学体系(中山書店)

さらに複数の書物により、「精神病質」について共通するのは、犯罪と切り離せない、つまり、反社会性の概念が強く結びついており、犯罪者における精神病質の割合は高く、早発・累犯犯罪者においても高率であるということです。累犯者は、性格の偏り(異常)と密接な関係をもつからだ、とも言われています。

また、精神病質の治療の困難さは、精神科医の間では非常に深く根付いていると言わざるを得ず、成人の精神病質治療の場としては、矯正施設以外では限られたごく一部の精神科病院があるだけです。精神病質者のアルコール・薬物使用障害の治療はなされていても、精神病質そのものの治療については、精神科医が経験を積む機会は少ないと言えます。

なお、「ストーカー病」の著書であり、NPO法人性障害専門医療センター代表理事である福井裕輝氏は、パーソナリティ障害やサイコパスの研究・治療に取り組んでいる一人です。福井氏は、「防犯・再犯防止のために適切な治療や処遇プログラムを含む包括的な社会システムがない限り、性犯罪は決してなくならない」と訴え、日本で唯一の性障害治療専門機関を運営しています。

日本でも近年、ストーカーや小児性愛による事件報道が増えています。事件化した際には、司法で裁かれるべきであることは当然ですが、厳罰が再犯を防げるとは限りません。福井氏の「加害者を減らさない限り、被害者が少なくなることもない」という言葉には、深く頷けるものがあります。

いっぽうで欧米とは異なり、福井氏のような精神科医は異端視され、「スタンダード」になりにくい日本の現状は、残念でなりません。

弊社が携わってきた事例も、精神病質と確定診断にまではいたらなくとも、性格の偏りにより社会適応できず、自宅内で家族を奴隷化したり、第三者に迷惑行為を行ったりするなど、家族や周囲の努力だけでは対応しかねる問題がほとんどでした。

そのような相談が年々増加する一方で、一般精神科病院からは治療を断られる現実を鑑みると、武村信義氏の以下の言葉は、今こそ生きるように思います。

精神病質の治療は、そのための特別な治療環境と治療技法を必要とする。精神病治療と精神病質治療はまず施設・病院づくりの段階で異なる方針に従わなければならない。具体的には精神病質のための特殊病院は、アルコール、麻薬などの中毒患者治療施設や、反社会性をもつ精神病患者のための病院と併設することも考えられよう。非社会的・反社会的行動の治療は金と人手を要するものであり、健康保険の枠内で考えていては十分なことはできない。国民はそのためにある程度の財政的負担に合意しなければできないことである。

引用:現代精神医学体系(中山書店)

余談ではありますが、脳科学者中野信子氏の新書「サイコパス (文春新書)」は、20万部以上の売れ行きだそうです。脳科学の分野からサイコパスについて書かれた本書が売れているのは、「自分もサイコパスかもしれない」と思う人が多いのか、あるいは周りに「サイコパス」と思しき人がいるからなのか……いずれにしても、人々の興味が向いていることはたしかなようです。