漫画版『「子供を殺してください」という親たち 1 (BUNCH COMICS)』では、同名の文庫をベースに、押川や弊社が見てきた「家族の問題」の実態を描いています(ノンフィクションですが、個人情報保護の観点から、個人を特定できるような情報については配慮しています)。

「なぜいま、漫画なのか」の本質については、巻末の書き下ろしコラムや、押川のブログに記述しています。ここでは少々、枝葉の話になりますが、弊社の見解を補足したいと思います。

最近の相談事例を見ておりますと、相談者である家族(おもに親)の総合的な思考力や理解力、決断力などが年々、弱まっているのを感じます。これは、学力云々の話ではなく、精神疾患や障害に関連する情報があふれる中で、本当に必要な情報の取捨選択が難しくなっていることが一因だと思います。

病識のない本人を医療につなげることの大変さを身に染みている家族だからこそ、症状軽快の先に見えてくる精神病質(パーソナリティ)の問題や家族関係の問題に薄々気づきながらも、その本質に向き合うことができていません。結果として、先々を見越しての客観的な判断ができなくなっています。

そして対応に限界がくると一気の解決(終結)を求めてしまい、解決とは程遠いこと(本人が一人で住める家を購入して住まわせようとする、治してくれる名医を探すとしてドクターショッピングをするなど)をしてしまう場合も多いです。

やがて家族も疲弊し、日々の対応で目一杯になります。そうなるといよいよ思考力が低下し、「今の辛い状況から、ただただ抜け出したい」とう願望が強くなってしまいます。「子供を殺してください」「死んでくれたら」という言葉は、その究極にありますが、最近は、家族がその境地に行き着くまでの時間も、短くなっているのを感じます。

相談者の方々は、ネットや書物での情報収集もできており、活字上の理解はきちんとなされています。ですがメンタルヘルスに関しては、人権という非常にデリケートな問題に関わることもあり、ネットなどで簡単に入手できる情報ほど、表面的な描写が多いことも事実です。弊社では長年、病識のない非常に重篤な精神疾患(疑いを含む)の患者さんを抱える多くの家族に携わってきました。家族からのヒアリングや視察調査、本人との継続した面会も踏まえ、表出する病状の背景には、きれいごとでは語れないさまざまな問題が横たわっていると考えています。

『「子供を殺してください」という親たち』の漫画では、その背景にまで斬り込んで、家族の問題を丸ごと表現しています。ショッキングな描写もありますが、精神疾患=危険だと言いたいわけではありません。漫画という分かりやすい手段により、当事者家族が問題の本質に気づき、適切な第三者の介入を得ることで解決の道があることを知ってほしいと願っています。

また、地域移行・地域定着支援が進められる現在に至っても、適切な医療につながれていない、病識のない重篤な精神疾患患者の生活実態は、その家族と、押川のように命を護ろうと現場に行っている者にしか知りえません。

ここまで家族の問題がこじれてしまったのはなぜか。この問題を、どうやって解決していけばよいのか。家族間で命を奪い合う不幸を、どうすれば食い止められるのか。真の問題解決のためには、建前や理想にとらわれるのではなく、まずはこのような現実があることを知り、国民全体で考えていくしかありません。

活字では伝わりにくいことも、漫画であればよりリアルに伝えることができます。読者が想像できればこそ、身近に引き付けてこの問題を考えることにもつながると期待しています。

簡単に答えのでる問いではないからこそ、「自分は関係ない」と思っている方々にも、漫画を通じてひろくこの現実を知っていただき、ともに考えていただけることを願っています。