賛否両論ある「新専門医制度」ですが、日本専門医機構は8月4日、「2018年から新専門医制度を開始する」と表明しました。

そもそも専門医とは、各専門領域で専門研修を受け、患者さんから信頼される標準的な医療を提供できる医師のことです。そして従来の専門医制度では、それぞれの診療領域において、担当する学術団体(学会)が専門医の修得すべき項目(研修カリキュラム)や研修施設などを定め、試験によって専門医の診療技能の修得レベルを認定する制度でした。

この専門医制度は、昭和37 年の日本麻酔指導医制度の発足が始まりといわれ、以降、各学会がそれぞれの分野の専門医の制度を立ち上げました。当初は学会間の連携もなく運用され、その状況では社会的な容認を受けることは難しいとして、昭和56年に日本医学会に加盟している22学会が集まり、「学会認定制協議会」を発足しました。

以後、変遷を経て、平成15年には「有限中間法人 日本専門医制評価・認定機構(旧機構)」が発足、平成20年に社団法人の認可を受け「社団法人 日本専門医制評価・認定機構」となりました。

「社団法人 日本専門医制評価・認定機構」に加盟している学会は85学会で、5年間以上の専門研修を受け、資格審査ならびに専門試験に合格し、学会等によって認定された医師が「専門医」と定義されてきました。

しかし、以下の理由から、新たに専門医制度が設けられることになりました。

専門医制度を運用する各学会の専門医認定基準が統一されておらず制度間のバラツキが大きいこと、また現在、機構で暫定的に扱っている専門医が102にも及んでいること、「専門医」に対するとらえ方についても、国民との間にギャップがあるなど、必ずしも国民にとって分かりやすい仕組みになっていないとの指摘がありました。
(一般社団法人 日本専門医機構の発表による)

新専門医制度に至る過程は、平成23年10月、厚労省において第1回「専門医の在り方に関する検討会」が行われたことから始まります。検討会はほぼ月に1回開催され、平成25年4月の報告書を受けて、専門医の育成と認定を統一的に行う第三者機関として、「一般社団法人 日本専門医機構」が設立されました(これにより、「社団法人 日本専門医制評価・認定機構」は解散)。

しかし、新専門医制度は当初から混乱をきたしており、一年の開始延期を余儀なくされました。「一般社団法人 日本専門医機構」は、今年8月4日、改めて「2018年(平成30年)から新専門医制度を開始する」と表明、その実現に向けて「今年の10月初旬から専攻医(専門医を目指して研修を開始する医師)の募集を開始する」ことを明らかにしました。

2018年度からリスタートをきる形となったわけですが、いまだ詳細が未定なものも多く、今年7月にも、有志の医師の集まりが新専門医制度の来年導入に反対し、1560人の署名を厚労大臣宛に提出するなどしています。

 

さて、精神科領域はどうなっているでしょうか。

これまで専門医制度を運用してきた「公益社団法人 日本精神神経学会」は、HPにおいて(2016 年7 月16 日)、「精神科専門医制度の発展を目指して」とする声明を発表しています。

「本学会は、日本専門医機構の方針には精神科専門医研修・教育にそぐわない点が多々あることから、交渉を繰り返してきたが、未だに改善すべき諸点があることが明らかになってきた。日本専門医機構が新執行部になり、これらの問題点が改善されることを期待している。」

この声明を全文読みますと、従来の専門医制度から新しい専門医制度への移行や、専門医の更新について、いまだ明確な基準が定まっていないことが分かります。

制度発足開始から波乱・混乱をきたしている専門医制度そのものについて言及することははばかられますが、精神科領域での制度移行の推移をみる限り、他科とは違う、この分野独特の複雑さも感じられます。

精神科医は、精神保健福祉法に基づいて、精神障害者の措置入院・医療保護入院・行動制限の要否判断などの職務を行う「精神保健指定医」という資格があります。こちらは、これまでに述べてきた「専門医」(認定資格)とは異なり、厚労大臣が指定する制度(国家資格)によるものです。とくに「指定医」は、その権利行使が適切におこなわれているかどうか、以前にもまして厳しく問われる時代でもあります。

またこの他に、「専門医」を指導することのできる指導医(認定資格)もあります。

専門医の認定を受けるかどうかについての法的拘束力はなく、現状では、各医師個人に任されています。指導医の認定も同様です。認定基準等の賛否はあるにせよ、臨床を行っている少なくとも中堅以上の精神科医の先生方は、専門医・指導医ともに学会認定を受け、「指定医」の資格もお持ちでおられるかと思います。

自身の主治医が現時点で学会認定の専門医であるか、指導医であるか気になる方は、日本精神神経学会のHPから検索可能です。
なお、「新専門医制度更新基準 本文 」では、「更新時に専門医に求められる条件」として、以下の記載があります。

診療に従事していることを示す勤務実態や診療実績の証明、知識・技能態度が適格であることを証明すること」などが求められます。そこで、日本専門医機構(以下機構)による新専門医制度に於ける精神科専門医更新は、①勤務実態の証明、②診療実績の証明、③講習受講をもって行います。

つまり、新たな専門医制度においては、実態のともなう臨床経験が必要とされるだけでなく、実績もが必要となるようです。

さらに、先に引用した声明(「2017年度の専門医制度の運用について」)の末尾には、以下のような記載もあります。

注釈7)精神科専門医制度に関する検討の場を設ける。患者・家族の代表、精神科七者懇談会の構成組織の代表、精神科看護師・精神保健福祉士・薬剤師・作業療法士・心理士の代表、学識経験者、行政、本学会専門医制度常任委員会委員等で構成した検討の場において、精神科専門医制度のあり方や地域偏在の問題等について定期的に検討する。

医師の専門資格について、医師以外の資格者や、当事者・家族なども交えての検討の場を希望しているとあり、その理由は定かではありませんが、おそらく、広くより良いものにするために意見交換をするという意味かと思われます。

病識のない複雑困難事例の医療へのアクセス(移送)に携わってきた弊社としましては、この「専門医」研修カリキュラムの中に、精神保健福祉法第34条(医療保護入院のための移送)における指定医診察同等の技能など専門技能の習得なども取り入れていただけるよう望んでおります。

第34条(医療保護入院のための移送)は、平成11年の改正精神保健福祉法において制定された条文ですが、いまだ適切に執行されているとは言えません。そしてこの、医療へのアクセス(移送)問題が解決されていないことが、近年増加している家族間殺人の一因ともいえます。

その他、新専門医制度の発足に伴い、複雑困難事例を踏まえた医師の育成や、一般市民による医師検索(精神科領域での専門科目を調べる)の仕組みなども希望するところであります。