先日のブログで触れました、厚労省キャリアの女性が刺殺された事件からもう一つ読み取れる側面として、その家族構成が挙げられます。

実家に精神疾患(あるいはその疑い)のある当事者と高齢の親が同居しており、相談者であるきょうだいは自立している、というケースです。この家族構成による相談は年々、増加しており、今後も増えていくことが予測されます。

とくに、相談者(きょうだい)がさまざまな問題に直面するのが、親に介護が必要になったときです。

当事者が医療や福祉の支援につながっており、大きな問題なく日常生活が送れていたとしても、同居する親に介護が必要になれば、生活のバランスは崩れることになります。これまで当事者の生活を親が支えてきた側面もあるでしょうから、きょうだいとしては、親の介護はもちろんのこと、当事者の今後をどう支えていくのか、問われることになります。

当事者が精神科未受診や受療中断の状態となると、事態はより深刻です。きょうだいが抱く悩み事をいくつか挙げてみましょう。いずれも実際に寄せられた相談事例です。

①親の介護できょうだいが実家を訪れるたびに、当事者と険悪になる

②親に訪問介護を受けさせたいが、当事者が嫌がりヘルパーが家に入れない。

③親がきょうだいとの同居もしくは施設入所を望んでいるが、当事者の反対によりできない。

④当事者が親の自由を奪い実家に軟禁している/親の預金通帳などを取りあげてしまった

このような場合、きょうだいとしては、まずは当事者を医療につなげることを考えますが、病識のないケースですとなかなか難しい話になります。そこで、当事者のことはいったん横に置き、親の介護に注力しようとしますが、それが当事者との揉め事につながってしまいます。悩み事①のパターンです。

この場合、当事者が多少なりとも親の介護に携わっていることが多いです。足腰の弱った親の代わりに買い物に行ったり、食事や入浴の介助をしたりしているのです。当事者としては、精一杯、親の面倒をみています。ところがきょうだいからみると、「できていない」と思うところも多く、頻繁に実家を訪れては手助け・口出しをしてしまいます。これが、当事者には面白くありません。

もともときょうだい間の関係が薄く(仲が悪く)、当事者の病状の一つとして被害妄想が出ている場合には、「親の財産を狙っているのだろう」「実家を奪い取る気だろう」という思考になってしまい、きょうだいが実家に来るたびに激しく罵倒したり、鍵を変えて家に入れなくしたり、ということもあります。悩み事②~④のパターンです。

とくに親が認知症になると、意思表示もままならなくなります。親自身が当事者との同居を解消することを望み、きょうだいやヘルパーなど第三者からみても、それが一番よいと思う選択肢であったとしても、当事者は「きょうだいが親をそそのかした」「きょうだいが嘘をついている」などと言って、親が実家から出ていくことを阻止しようとします。これは、当事者自身の今後の生活に対する不安の表れでもあります。

厚労省キャリアが刺殺された事件でも、被害者の女性は、母親の介護のために前日から実家マンションを訪れていたと言います。精神科通院歴のある弟(加害者)の病状の軽重は分かりませんが、殺人にまで至った背景には、親の介護をめぐる葛藤も少なからずあったのではないかと推測されます。

そこまで状況を悪化させないためにも、早い段階で、当事者を医療につなげ、継続的な支援が受けられるよう、環境を整えておく必要があります。

また、介護が必要になったときに親自身がどうしたいのかについても、あらかじめよく話し合っておくべきです。親の施設入所など、家族間で同意ができていれば問題なく進むことも、トラブルに発展してしまうと遅々として進まなくなります。揉め事が心労につながり、短期間のうちに親の病状が進んでしまうこともあります。

親は、いざというときには施設入所を望んでいるのか? 当事者ではなくきょうだいに老後の面倒をみてもらいたいと思っているのか? 老後に使えるお金のことも含めて話し合い、「親の意思」を、公正証書などに残しておいてもらうことです。

子育てと介護の両方をしなければならない“ダブルケア”が大きな問題となっていますが、今後は、障害をもつきょうだいと親のダブルケアも、見過ごすことのできない社会問題になっていくでしょう。