家族間事件を扱う読売新聞のシリーズ「孤絶 家族内事件」ですが、年が明けてからは海外の家族間事件を取りあげています。1月17日は、イタリアの精神科医療についての記事でした。

日本で「地域移行」について語られるとき、よく引き合いに出されるのがイタリアです。地域移行の推進派は、「イタリアには精神科病院がない。それでうまく行っているのだから、日本も精神科病院(入院施設)をなくせるはずだ」と主張します

しかし、「イタリアに精神科病院がない」というのは正しい情報ではありません。それは、読売新聞の記事からも分かります。

イタリアでは、自宅で暮らす精神障害者に対する外来・訪問医療を担う精神保健センターと、重症者が入院する総合病院の精神科急性期病棟が整備されている。

イタリア国内に約700か所ある同センターには、医療・福祉スタッフが常駐している。在宅患者約2000人に対応しているトレント市のセンターでは、当初は土曜午後と日曜を休館していたが、家族の要望を受け、10年ほど前から年中無休にした。ただ、イタリア全体では、対応時間を平日夜などに限定しているセンターもあり、地域で格差がある。

(引用:読売新聞2018/1/17)

専門家の中には、「入院治療が必要なイタリアの重症患者は、近隣諸国の精神科病院に入院しているだけ」という方もいます。正確なデータは分かりませんが、陸続きのヨーロッパであれば、あながち不可能ではないと思います。いずれにしても、「精神科病院(入院施設)がなくてもうまくいっている」わけではないのです。

もっとも、記事で取りあげている事件では、被害者の息子は地元の精神保健センターで治療を受けていたと言います。それでいて、父親が息子を殺害したのはなぜか? その動機について、父親は「家族に危害を加えることを恐れた」と説明したそうです。あくまでも推測になりますが、親子関係の問題や、家庭内暴力などがあったのかもしれません。

イタリアにおける地域移行について、精神保健局長は、以下のように語ります。

北部トレント市のレンツォ・デ・ステファニ精神保健局長(70)も「すばらしい支援と、ひどい支援が混在している。緊急時に自宅訪問ができないセンターも少なくない」と指摘した。

(引用:読売新聞2018/1/17)

「すばらしい支援とひどい支援の混在」とありますが、日本でも同様の格差が生じていることは、押川の著書でもたびたび述べてきました。

また、地域移行の光と影を象徴する話として、先日、医療関係者からこのような話を伺いました。曰く、「(某地方都市の)〇〇病院は、早期退院を徹底しているので、たいへん儲かっている。だが、処遇困難患者は治療途中で放り出されることになり、その患者たちは、同じ地域の別の病院が受け入れている。言葉は悪いが〇〇病院の尻ぬぐいをさせられているようなもので、最近では、地域の病院がこぞって『〇〇病院からの転院患者は受け入れない』と言うようになった」と言うのです。

この状況で、もっとも被害を受けるのは誰でしょうか。言うまでもなく患者本人であり、その家族です。患者や家族は病院の裏事情までは知りません。たまたま〇〇病院にかかったことで、いわゆる「ブラックリスト」に載せられてしまうのでは、たまったものではありません。

地域移行にも、良い面はたくさんあります。しかし、良い面ばかりに光を当てていては、影は色濃くなるばかりです。読売新聞の記事は、影の部分にも着目した、斬り込んだ内容であると感じました。日本が現在、推進している「地域移行」についても、バランスのよい報道がなされることを期待します。

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